こんにちは!アパレル社員です。
今回は「生地の物性と物性試験」について紹介します。
お気に入りのパンツを履いてちょっとアクティブに動いたその時、、、ビリッ!!!
「うわ!パンツのお尻が破れた!!」
なんてことは中々起きませんよね。(笑)
というのもこういったことが起こらないよう、
アパレルメーカーでは商品を企画する際、生地破れなどのトラブルを防ぐため事前検査を必ず行っています。
今回は業界では当たり前ですが、一般的にはあまり知られていない「破れや擦り切れなどの物性トラブル」を未然に防ぐための生地検査について紹介します。
紹介に入る前に本記事はこのような人におすすめです。
・将来アパレル業界への就職を考えている学生さん。
・アパレル業界への転職を考えている社会人さん。
・入社したてのアパレル業界の新人さん。
それではご覧ください。
目次
生地の物性とは
繊維製品は着用と洗濯を繰り返すことが前提であり、長期間の使用に耐えるためには生地の強度が必要です。
生地の物性とは力がかかった時の生地の破れや擦り切れ、繰り返しの洗濯に対する「耐久性や抵抗性」のこといいます。
物性が強い生地ほど外観変化が少なく、破れにくく耐久性が良いといえます。
生地の物性を調べるうえでよく起こるトラブルの一覧です。
・ストレッチパンツの膝がポコッと出て戻らない。
・ポロシャツを洗濯したら丈が縮んだ。
・毎日の通勤にリュックを背負っているとスーツの肩紐の当たる部分が毛羽立ってきた。
・薄手のパンツの内股の生地が破れた。 etc…
試験項目
JISで規定されている物性試験には幾つか種類があります。
その中から生地の特性に合わせて必要な項目を試験しておくことが大事です。
以下、代表的なものを紹介します。
引張強さ試験
生地の引っ張りに対する抵抗力、強度を測る試験です。
織物が対象です。
引張試験機を使用し、縦と横に生地を引っ張り、生地が破れた時の圧力を測定します。
生地に強い力が加わった時に破れないかを事前に調べることができます。
引裂強さ試験
生地の引き裂きに対する抵抗力、強度を測る試験です。
織物が対象です。
引裂試験機を使用し、生地の縦と横に小さく切れ目を入れ勢いよく引き裂き、生地が裂けた時の圧力を測定します。
引張強さ試験同様、生地に強い力が加わった時に破れないかを事前に調べることができます。
引張強さ試験との違いは生地に切り込みを入れるところです。
まとめると
引張強さ試験は生地そのものの強度を測定する試験
引裂試験は縫製後の生地強度を測定する試験
縫製後は複数の生地がパーツ事に縫い合わされているため段差になっていたりします。その部分に力が加わると破れやすいので生地状態の引張試験、縫製後の状態に近い引裂試験で生地の強さを測定する必要があります。
破裂強さ試験
生地の破裂に対する抵抗力、強度を測る試験です。
編物が対象です。
破裂試験機を使用し、生地に圧力をかけていき、生地が破裂した時の圧力を測定します。
カーディガンなどの編地に強い力が加わった時に破裂(パンク)しないかを事前に調べることができます。
摩耗強さ試験
生地の摩擦に対する抵抗力、強度を測る試験です。
摩耗試験機を使用し、生地に摩擦を加えどの程度摩耗するのかを測定します。
滑脱抵抗力試験
縫製後の縫い目から生地が滑脱していないかを測る試験です。
引張試験機を使い縦方向、横方向に縫い合わせた生地を引っ張り、所定の荷重でどの程度縫い目から滑脱するのかを測定します。
滑脱が起こるとその部分の生地が薄くなり破れやすくもなります。
薄手の生地や糸密度の荒い生地は滑脱が起こりやすいので特に注意して調べる必要があります。
ピリング試験
生地に毛玉(ピル)がどの程度できるのかを測る試験です。
毛玉は着用中や洗濯の際の摩擦が原因で起こります。
この毛玉が生じた状態の事をピリングといいます。
ゴム管という棒に巻き付けた生地をコルク張りの回転箱という機械に入れ長時間回転させ摩擦を起こし、どの程度ピリングが発生したかを確認します。
ピリングはポリエステルなどの長繊維やニット製品に起こりやすいです。
スナッグ試験
生地にスナッグという現象がおどの程度起こるかを測定する試験です。
生地が突起物や鋭利なものにより引っ掛かれ、糸が飛び出したり、引き連れが起こるスナッグという現象がどの程度起こるのかを測定する試験です。
試験方法はA法とD法があります。
引っ掛けに対する生地の抵抗力、強度を事前に調べることができます。
パイル保持性試験
パイル糸が滑落しないかを測定する試験です。
コーデュロイやベロアなどパイル糸がある生地に対して行われます。
A、B、C、カケン法があります。
寸法変化率試験
家庭洗濯、ドライクリーニング、アイロンなどにより生地が収縮しないかを測定する試験です。
家庭洗濯、工業洗濯、ドライクリーニング、ウェットクリーニング、プレスなど様々な種類があります。
洗濯後の縮みが心配な商品に対して事前に調べることができます。
その他の試験
上記の試験の他にも商品の特性や後加工をしたものにはそれらを評価する試験もあります。
・ストレッチ生地の伸長率と回復率を測定する試験
・撥水生地や撥水加工品の撥水性能を測定する試験
・防水生地の耐水圧、透湿性を測定する試験
・生地の通気性を測定する試験
・紫外線のカット率を測定する試験
・静電気などの帯電性を測定する試験 etc…
他にも様々ありますが機能性や快適性を打ち出している商品は必ずこれらの試験を実施し、試験結果に基づいた性能や効果をうたっています。
試験機関
一般財団法人カケンテストセンター
一般財団法人ボーケン品質評価機構
一般財団法人日本繊維製品品質技術センター(QTEC)
などに試験を依頼し、試験結果を提出いただくのが一般的です。
試験実施場所は日本のみならず、中国、ベトナム、バングラデシュなどの、昨今生産拠点となっている海外にもあるのでタイムリーな対応も可能です。
アパレル社員的まとめ
生地の物性と物性試験について紹介しましたが、これだけは覚えておくべきというポイントをまとめておきます。
・生地の物性とは外的要因に対する生地の耐久性や抵抗性の事をいう。
・アパレルメーカーは商品企画段階で必ず各物性試験を行っている。
・生地物性試験には様々な種類がある。(種類が多いので割愛)
・物性試験の他にも機能性、快適性を測る試験もある。
これらの試験データを保管しておくことで、万が一商品が破れた、縮んだなどのクレームがあった場合に、
クレーム品の状態、着用頻度と着用状況、洗濯方法、保管状況などの情報と、生地の物性試験データを照らし合わせると聞き取ると、なぜこのようなクレームが発生したのか推測ができるようになります。
またこの試験データに基づき、品質表示や取り扱い表示を作成することで、消費者へ適切な取り扱い方法を促し、クレームを未然に防ぐことができます。
ちなみに冒頭で紹介したトラブルの一覧に対して重要度の高い試験は下記のようになります。
→ピリング試験
・ストレッチパンツの膝がポコッと出て戻らない。
→ストレッチ生地の回復率(弾性回復率)試験
・ポロシャツを洗濯したら丈が縮んだ。
→寸法変化率試験
・毎日の通勤にリュックを背負っているとスーツの肩紐の当たる部分が毛羽立ってきた。
→摩耗強さ試験
・薄手のパンツの内股の生地が破れた。
→引裂強さ、摩耗強さ、滑脱抵抗力試験
こういったトラブルの場合、
①商品企画段階での物性データが悪かった、または調べていなかった。
②消費者の着用の仕方、洗濯、保管などの使用状況が非常に悪かった。
という2つの原因に分かれます。
商品を企画、購入するうえで気を付けてほしい「生地の物性」この機会にぜひ覚えてください。
ちなみに色落ちトラブルについてのこちらの記事も必見です。